前日譚

 きっかけはなんだっただろうか。鮮明に覚えているのは、「人に優しくなれ」という父からの言葉だった。

 

どのようなやりとりがあってこの会話をしたのかは覚えていない。ただこの言葉に対し、怒りが湧き上がってきたのは事実だ。私のことを何も知らないくせに、知ろうともしなかったくせに、分かったように言うなと。

 

 

 

今更だが、私は家族(特に父親)と仲が悪い。と私は思っている。いつも笑って父の機嫌を損ねまいと振る舞っていたのも、馬鹿なふりをしてヘラヘラ喋っていたのも、今思えば馬鹿馬鹿しい。

 

こちらはずっと振り向かせようとしたのに、あちらは亭主関白のように振る舞い、こちらの気持ちに気づかなかった。かと思ったら今はあちらから機嫌を取ろうとしている。まあ母がいる時だけだが。父は母に逆らえない。

 

私のことを知ろうともしなかった。私は自分の事をわかったように言われるのが大嫌いだ。特に家族から言われようものなら憤慨する。私は嫌いなものが多い。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

父は私を意地の悪い人間だとでも思っているのだろうか。

 

これ以上どう優しくあれと?私の交友関係を何一つ知らないくせに何を言っている?人に虐められたことしかなかったのに、それすらも知らないくせに私が優しくないと?

 

 

以前、父の職場にいる私と同い年の新人の方が、全然使えないと愚痴っていた。まるで私のようだと。

 

「は?」

と反射で声が出る。私はそんな迷惑をかけた覚えはないと反発した。すると父は「いやいや笑」と言って黙った。

 

何を根拠に言っているのか。そもそも自分の行動に対して何も思わないのか。私に何があったか知らないくせに

 

 

 

話は脱線したが、愚痴ることができない性格が故、溜まりに溜まった鬱憤を晴らしたかった。あんなことをしたからといって気は晴れなかったが、後悔もない。

 

翌日、両親から「昨日うるさかったけど何を落とした?」と聞かれ、八つ当たりをしたことを話した。両親は「なんで笑」と鼻で笑った。